彼岸も過ぎた9月25日。雨混じりの夜は秋を感じさせる涼しさです。
でも、この店に一歩踏み込むと、空気が暑い。季節や気温や天気、それらとはかけ離れた空気が漂っていました。高円寺の老舗ライブハウス『ペンギン・ハウス』の20周年を祝う、仲田修子&ミッドナイト・スペシャルのライブ。
静かなピアノの音からミッドナイトのライブが始まることは、珍しいことです。小粋な感じで『いきなり降り出した雨の中で』、この曲が一曲目というのも少し驚きました。修子さんの衣裳は、黒を基調に深紅の柄が華やか。ライブは、ドラマチックにスタートされました。
定番ブルース、オリジナルのブルースと続き、一部最後はバンド名となったスタンダード『ミッドナイト・スペシャル』。修子さんの気合も凄まじく、バンドの乗りも迫力満点、もう既にライブが最高潮のような盛り上がりでした。このままだと二部三部はどこまで昇りつめるの?と心配になるほど。
でも、それはさすがの構成力でした。二部では、シタール奏者の菅井さんをゲストに、バンドもアコースティック・バージョンで、しっとり聞かせるオリジナルを披露してくれました。
修子さんは特定の宗教には属していないそうで、インド音楽に影響を受けた話も聞きませんが、含みのある深い歌詞と力のあるボーカル、世界が見えて来る演奏には圧倒されました。シタールの崇高な音と修子さんの世界が、とてもうまく合うのだと思います。修子さんの歌には、世俗の匂いを感じさせない、高いところにある精神を感じます。
そして、三部。泣きのギターが響き、修子さんの登場です。シタール曲の時に衣裳替えして、黒のシースルーに金ラメが輝くゴージャス感のあるドレスです。『夢で泣いてる』は、クライマックスでも映える曲ですが、今回のように導入部でさらりと演奏しても、かっこいい曲だなあと感動しました。
デュエットのラブソング、タンゴ、乗り乗りのナンバーが続き、一部での危険な予感(笑)は的中、三部では更にもっと盛り上がり、観客も席から立ってダンスタイムに。
もう一人のゲストは、ブルース・ハープ奏者の板谷さんです。綿密なリハ等はしていないと思うのですが、乗りや空気が完全に「もう一人のミッドナイトのメンバー」という感じで、『スィートホーム・シカゴ』等で渋いセッションを聞かせてくれました。
最後の曲は、「ココニイルヨ」という歌詞を繰り返すファンキーな曲で、SF小説『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガット)の「ハーモニウム」と言う存在を思い出させました。その生物は「僕はここにいるよ」と「君がここにいてよかった」という二つの言葉しか持ちません。彼らは宇宙で一番幸せな生き物という設定でした。私もステージを向いて『修子さんがそこにいてよかった』と幸せな気持ちになりました。
アンコールは、この店のことを歌った穏やかで暖かな曲『Penguin House』で締められました。スタンディングで踊りまくった後に、こういう曲で終わるのは、お洒落で『いい感じ』でした。
みんなも幸せそうな笑顔でした。『お天気がどうこう』という世間の挨拶の必要ない、地下の秘密倶楽部の仲間達。
ミンナ、ココニイテ、ヨカッタ。
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