細い階段を降りて、重い木製の扉を軋ませて開ける。見渡せば、馴染みの仲間やら新しい顔やらが、グラスと煙草を手に、店の風景に溶け込んでいます。『仲田修子&ミッドナイト・スペシャル』のライブは、いつも『秘密の集会』に参加するようなワクワク感があります。
11月27日(土)。もう街を行く人々は、冬物のコートに身を包む季節になっていました。私もコートを脱いでアルコールで暖まり、ライブを待ちます。心なしか、今夜は初めてのお客さんが多いような。
ファンになったばかりのお客さんの、何が羨ましいかというと、初めて聞くミッドナイトの曲がたくさんあるということです。私がかつて味わった驚き、感動を、これから体感できる人達なのです。
スリリングなギターと共に、ゆっくりと修子さんが登場しました。最近定番になったスモーキィなブルーのコート姿です。始まりのドキドキする感じは、何度体験しても新鮮で、決して擦り切れることはありません。『夢で泣いてる』はヘビィな曲です。徐々に世界に入って行こうとする甘えを許さず、いきなり心を持っていかれます。
コートを脱ぎ捨てると、下は小粋なチャイナのブラウスに黒のパンツ。竹ビーズと翡翠風のアジアなイヤリングが揺れて、綺麗です。2曲目でいきなり、ギターの有海さんとの濃厚なデュエット。なんだか今夜も濃そうな予感。
タンゴあり、ブルースあり、ファンク乗りの曲ありで、第1部も密度の濃い構成でした。特に最後の『ここにいるよ』では、既にアンコールのような盛り上がりで。お替りのビールもおいしい。
2部の修子さんは、目も覚めるような真っ赤なジャケットに銀のスパンコールのブラウス。さりげなくドラマチックな『いきなり降り出した雨の中で』で始まりました。
そして次の曲では、「指揮をしようと思います」と、修子さんがくるりと客席に背を向け、颯爽と片手を上げました。
『え?何が始まるの?』と客席が息を飲みます。静寂。グラスの音も聞こえず、煙草の煙だけが揺れて昇って行きます。そして、振り降ろされた腕。バンドメンバーのアカペラで『♪Let
The Midnight Special〜♪』のコーラス!!
整ったコーラスでは無く、荒くれな感じがかっこよくて、ざざっと鳥肌が立ちました。『うわっ、やられた!』という感じ。そして、ドン!と修子さんのボーカルに突入して、観客の空気は一気に前のめりに変わります。
曲のタイトルは、刑務所の側を走る『深夜特別急行列車』から取られていますが、『脱獄』のことでもあります。型にはまった音楽や世間から脱した、このバンドのことでもある気がしました。太陽の下で無く、真夜中が似合うヤバさを持つ、まさにスペシャルなバンドです。
その後は、スタンダードなブルースや、音楽性の高さに脱帽の『東京音頭〜東京行進曲〜Sing Sing Sing』のメドレーなどで魅了させました。パンク味の東京音頭なんて、たぶん世界中探しても、ここでしか聞けないでしょう。
乗りのいいブルースが続いた後、アンコールは静かな『地下の酒場で』で、粋に終わりました。真夜中の『特別』とはこういう時間を言うのでしょう。
初めての人が羨ましいなんて思っていたけれど。リピーターにも、とびきり新鮮な感動を与えてくれた夜でした。
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