肌触りのいいゆったりした衣服をまとう時のように、ミッドナイト・スペシャルのライブはいつも気持ちよく皮膚に滲みて来ます。今まで冗長さや緩慢さを感じたことは一度もありません。でも、その夜のライブは、ぴたりと体の線が出るドレスを着て背筋を伸ばすようなそんな特別なタイトさでした。
2006年最初のライブ。2月4日は「この冬一番の寒さ」という気温。扉を押して家から出るのに勇気が必要な夜でしたが、ペンギンハウスには満員の仲間、ごきげんなブラザー&シスター達が集まりました。
急な温度差は体に悪いから、というわけでは無いでしょうが。その日のライブは、修子さんのボーカルと有海さんのアコースティック・ギターだけの「プカプカ」から、静かに始まりました。関西ブルースのスタンダードとも言えるこの曲は、ルーズで芝居がかった演奏をされることが多いようですが、修子さんの歌い方は真摯でまっすぐな感じがします。澱んだ煙でなく、澄んだ紫煙です。それがすうっと一筋、天井へ昇っていくような「プカプカ」でした。
2曲目からパーカッションの瀬山さんも参加し、アコースティックな曲が続きます。特に「皇帝陛下の密書」は、修子さんのナイフエッジのような語りと歌に鳥肌が立ちました。緊張感でつい息を止めて聞き入ってしまう。演奏が終わると客席の所々で満足の溜息があり、真空状態のような沈黙があって、それから絶賛の大拍手でした。
ベースの増吉さんとキーボードの実世子さんも加わりバンド編成になってからも、じっくり聞かせる曲が続きます。修子さんはエメラルド・グリーンのチャイナ風のブラウスと、大きな木の葉模様のパンツスタイル。メンバーは黒と赤に統一された衣裳で、きりりとした印象でした。
一部の終盤は乗りのいい曲で締め、二部は恒例のブルースセッション。八ヶ岳からポルシェで駆けつけたギターのROKU岩切さんと、一級建築士でもあるブルースハープのドラゴン板谷さんが参加です。一部は聞き惚れる『静』の曲が多かったので、二部では観客も声や腕を振り上げ、椅子を軋ませるほど体を揺らせて『動』の楽しみを味わいました。
クライマックスは、新生ミッドナイトでは初めて演奏した曲でしょうか、「ダンシング・ゾンビ」。過去も、こんなノリノリの場で使われたことはあまり記憶にありません。この曲がライブの高揚感をこんなに高めるとは思ってもみませんでした。ハードに踊るという感じでなく、楽しさが溢れ出して『はしゃぐ』という乗りです。メンバーの息の合った振り付けもステキ。
ラストはヘビメタ風の「東京音頭」にジャズやら昔の歌謡曲やらが融合したメドレー。粋なアレンジがかっこいいです。拍手の洪水がおさまり、アンコールは「国立第七養老院」と「狼の子守唄」でした。音頭シャッフルという不思議なリズムと、風刺とユーモアに溢れる"養老院"では、客席に笑いが洩れます。そしてライブは、独特の情緒のある「狼の子守唄」で、しんみりとピリオドを打ちました。今夜は構成がとても新鮮な印象で、緩急が効いた締まったライブでした。
MCで修子さんは、「ライブのお客さんが私に『元気を貰いました』と言ってくれる意味が、自分の録音を聞いてわかった」とおっしゃっていましたが。今夜また、私達は元気を貰って帰りました。そう、それから、頬も紅潮して体も暖かくなって。メンタルだけでなく、フィジカルの方も元気になっていた気がします。
寒さって、『楽しい』という気持ちがあれば消えるものだと感じた、熱い夜でした。
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