高円寺千夜一夜 第三夜 「P・T・O・」のとも(朋)くん 彼はバンドをやっている。「THE・GAMES」という名前の、ギターボーカル、ドラム、ベース、というロックの基本とも言うべき三人編成(トリオ)だ。 初めて聴きに行った時、そのストレートでタイトなサウンドに、とてもすがすがしい、爽やかなものを感じた。これぞ男のコのロックンロールだ!私はちょっと嬉しくなった。 「みんな、ハートに鍵を掛けな!オレに盗まれないように!」 そう言って次の曲を歌い出した彼のことを詩人のセンスがあるな…とも思った。 ここでメンバー紹介……彼、ともくんことギターボーカル、白岩朋幸、オンドラムス、中村恵一、(彼が真っ白いタオルで鉢巻をして、もの凄い勢いで鋭いエイトを叩き出すのを見た私は、勝手に彼に白虎隊!という仇名をつけてしまった…)そしてオンベース、大久保誠…。 そして彼等三人は全員同い年…それもそのはず、朋くんとドラムの中村君は何と、保育園からの付き合い(スゴイ!)だという。さらにベースの大久保君は中三の時に転校して来て、高校からずっと一緒にバンドをやってきたという。だから彼らは全員1973年生まれ、朋くんの言い方によると「浅間山荘事件」の前年に生まれたのだ。 「じゃ、その時一才で、テレビに釘付けだったでしょ!」 私がそんな冗談を言うと彼は、 「そう!朝から晩までテレビ見てましたよ!」 と、お洒落なノリで返してくるところがイケてるのだ。 朋くんは、そのメンバー共々、群馬県の出身で、高校生の時から地元のライブハウスとか学祭とかで活躍していた。そして高校を卒業するとすぐにみんなで東京へ出てきて、働きながらもバンド活動を続け、それが今までもずっと続いているのだ。 そもそもクラシックやジャズなんかとは違って、ブルース系、ロック系のミュージシャンというものは、まずバンドのメンバーである以前に「仲間」である事が物凄く重要なのだ…だから朋くん達のバンドはそういった面から見ても、ロックの王道をいってると思う。 そして朋くんは「P・T・O」というお店を出した。今から二年前の平成十三年、二月十七日に開店したというバーだ。 壁は赤く、天井はインクブルーに塗られた凹凸のあるウレタン、カウンターの端には若き日のエルビスの写真、そして流れる音は3コード系ごきげんロックンロール。 話は突然ズレるけど、今回改めて取材のためにこのお店を訪れた私は、写真を撮ろうとして、デジカメの使い方がいきなり解らなくなってしまい、大慌てで私のやっている音楽スクールの事務の荒居くんに来てもらう事になったのだけれど、デジカメの使い方を私に教えたあと、彼荒居くんはしみじみとした真顔で、 「ここ…カッコイイですね…カッコイイお店ですね…」 と言いながら店内を眺めていた。それを見た私は初めて、(そうか…ここはカッコ良い店だったのか…)と気が付いた。それまではただ単に「壁が赤い店」としか思っていなかったのだけれども、荒居くんのようなどっちかというと地味で真面目なタイプの男のコでも、矢張り、二十五才になったばかりの若い子が見るとすごく魅力的なインテリアであり、雰囲気なのだろう。 そう思って改めて店内を見渡すと、そこここにセンスの良い気配りがされていて、それらのインテリアの全てを朋くん一人で考えて作ったとのこと… 「ホントは古着屋でも良かったんだけど…バーのほうがモテそうだったから…」 彼は店を始めた動機を冗談っぽくそう言ったけれど、古着屋をやってもイケそうなセンシブルなところがある…と私は思った。 朋くんのお店は、高円寺パル商店街がルック商店街に名前を変える所から右に直角に伸びているエトワール通りを少し歩いたところの右側にある。 彼がこの店を始めた本当の理由は、「いつも大好きな音楽を聴きながら出来る仕事をしたかったから…」というのだが、とっても理解できるし、頭いいし、行動力があるとも思う。 「P・T・O」で飲んでいる時の朋くんは、「THE・GAMES」のライブで、ギターを弾きながらストレートなR&Rをシャウトする姿からは想像できない位に、カウンターに何か置いたり、またそれを下げたりする動作、タイミング、そういうのがとてもエレガントで、「まだ若いのに感心な…」などと私は勝手に思ったりする。 「バンドやってて、どんな時が楽しい?」 私は聞いた。 「やっぱり、みんなのハート盗んだ時が嬉しいスね…」 「バンドはこれからどうするの?どうなっていきたいの?」 「バンドは、別に続けようとも思ってないし、止めようとも思わない…お酒を飲むのと同じ、自然な事かな…」 朋くんは基本的にはにかみがちに、私の質問にさらりと簡潔に答えてくれた。 「最後に…高円寺のどういうところが好き?」 「時計を捨てた感じが好き…」 「それは、どういうこと?」 「時間に追われている街って、あるじゃない?丸の内とかそういうオフィス街…そうじゃない感じ…」 なるほど…彼は詩人だ、私はそう思った。 次(第四夜)を読む 前(第二夜)に戻る 千夜一夜TOPに戻る |