高円寺千夜一夜 第七夜 「ザ・コミックメンツ」のコマッチ君ストーリイ その弐 そんなわけで彼は「メイト音楽学院」の発表会で「ダンス天国」「ムスタングサリー」を歌って、やっぱり無性に歌が歌いたくなり、 ウイルソンピケットなどをやりたいのならと見せられた映画「ザ・コミットメンツ」に感動しそれを意識した「ザ・コミックメンツ」というバンドを始めたのだが、何とその結成祝いの席上でコマッチ君こと小松崎君がちょっと悪い冗談を言ってしまったところ、その後でリーダーだったはずのピアノの人から方向性が違うからやりたくないと言われ、コマッチ君は他のメンバーに、 「じゃ、このあとオレが仕切ってやっていくけど良いかなぁ?」と言ったところ、みんながOKしたので、結局彼がリーダーということになったのだ。 そしてそのコンセプトは「打ち上げを楽しむための飲み会バンドとしてやっていくから、いろんなことを意識したりして、あまり堅苦しく考えると楽しくなくなるから気楽にやっていこうよ」 メンバーにはそう言っているという。粋でお洒落な彼ならでは、の発言だろう。 それを聞きながら私は去年日本青年館に彼の「ザ・コミックメンツ」を聴きに行った時の事を思い出した。 ステージ上、バックアップバンドと「バンビーズ」というコーラス隊三人の女のコ(全員黒いセクシーなドレスを着ている)だけが演奏している…しばらくそれが続いたあと、颯爽と彼が登場する、とたんに場の空気がバシッと締まりそのテンションの中心にそれを作り出しかつ支えるコマッチ君がいる。 曲はリズム&ブルース、彼の歌のノリは素晴しい…さらにスタンドワーク(マイクスタンドをアクロバティックに動かすパフォーマンス)までこなして、ここぞ、というタイミングでビートに乗ったままジャケットを脱いだ…お洒落なシャツを着ていた…完全な様式美の世界がある、私はそうも思った。最前列ではアメリカ人らしい白人青年達が嬉しそうに立ち上がってノッている…そんな情景を昨日の事のように思い出した。 このバンドは九七年に始まって、今七年目になるという。そしてコマッチ君はこのところずっとお酒を止めているそうだ。なんでも今年の八月十五日(終戦記念日)まで…ちょうど去年のその日から禁酒を開始して、一年間続けるという。その理由は、今まで自分は酔っ払いのイメージが強かった(らしい)が、完全に飲むのを止めた自分がどう変るのか?そして変化した自分を客観的に眺めた時、自分自身どう思うのか?それにとても興味があるという。 私は彼のステージを二回見て、それでテナーサックスで自分のライブにゲストで出てもらった位の付き合いしかないのだけれど、観客としても、一緒のステージに立っても、彼の良さは向っ気の強さと律儀で真面目な性格がミックスされて独特の華やかさになるのだろう…私はそう思った。 「今まではハコバン(カバー曲を中心に営業的にやるバンド)から音楽を始めたというコンプレックスがあって、そこからくる意地でやってきたようなところがあるけど…最近やっぱり素直が一番!って思うようになりましたね…今はまだ修行中で途上で、色々なことを吸収する時期ですけれど、いつか偉大なすごいミュージシャンになりたいし、今丁度スタート地点に立ったような気がしますね。すべてのことはこれからで…とりあえずの夢はアポロシアター(アメリカの黒人ミュージシャンの殿堂、登竜門的劇場)に出ることかな…思ったことは必ず実現するんですよ」 取材の時、彼はそう語ってくれた。現在のコマッチ君は先述した「Minor Drag」でサックスプレイヤーを、そして「ザ・コミックメンツ」ではバンマスでリードボーカル、さらに「クールス」で時々サックスを吹かせてもらったり。その他サポートで色々な音楽活動をしているという。 「ザ・コミックメンツ」は一番多かった時が十二人編成、今は九人編成だという。コーラスの「バンビーズ」は今、初代から数えて第六期生だという。ソロボーカルになって卒業していった女の子もたくさんいるらしい。 「まあ、一種の学校みたいなもんですね」 彼はそう言った。私は考えた、きっと彼はとてもよく気が付く人でおそらく面倒見もいいのだろう…でなければ七年もの間、そんなに沢山の人達が付いて来るはずもなく、私自身いつもバンドでリーダーばっかりやっているから、コマッチ君のすごさというのが何となく想像できるのだ。 そして彼と話しているとしょっちゅう「戦略」という言葉が出てくるのだけれど、コマッチ君のそれを聞いていると、例えばどこかの大企業なんかが立てたりする「戦略」とは正反対の、まるで楽しいゲームのように聞こえてきてこっちまでウキウキした気分になってくるのだ。そして彼は言う。 「やっぱり歌を歌うこと最近は楽しくなってきましたね、だからその好きな事を何にも縛られずにどんどんやっていきたくなってきましたね」 コマッチ君は話をすればするほど知的で、物事を冷静に判断して実行する面のあるひとだということが解ってくる、だから彼のステージというのはきっちりとした演出がなされていて、その計算をかれのパッションがしっかりと実のあるものとするのだろう。 そして「戦略」と並んでもう一つのキイワード、それはやはり「カッコ良さ」だ。 「カッコ良さって、やっぱコマッチ君のキイワードだよね?」 取材の終わりごろ、私はそう言った。 「そうですね…でももっと言うと、ダサカッコ良さですね…」 「うーんダサカッコ良さ…なるほど…それってまんまブルースじゃん?」 「そうですね」 彼はきれいな歯を見せてニッコリと笑った。 次(第八夜)を読む 前(第六夜)に戻る 千夜一夜TOPに戻る |