もこもこの手袋をコートのポケットに突っ込みながら細い階段を降りる。席を決めたら、まずマフラーを解く。そんな季節になりました。
11月29日、ペンギンハウス。仲田修子&ミッドナイト・スペシャルの、"今年最後"のライブです。
街はすでにクリスマス・イルミネーションで飾られています。これから、背中を蹴飛ばされて前へ前へと走り出さねばならないような日々が始まります。
一曲目はスローテンポで心にすうっと入ってくる『ペンギンハウス』という曲。この店のことを歌った、暖かくて優しい曲です。客席は、これからの多忙や現在の多忙を忘れ、別の空間へ引き込まれて行きます。
この夜のメンバーの衣裳は、黒をメインに、少しの赤を効かせた季節を感じさせるものでした。修子さんの赤いジャケットに映える真紅のルージュが綺麗です。ベースの増吉さんは袖にチラリと赤を見せ、キーボードの実世子さんは赤いジャンバースカートなど、効かせ方もそれぞれで、かっこいい。
ライブが進み、"貧困をテーマにしたオリジナル曲"の段になると、ステージも客席も一気に盛り上がる。
「架空請求なんて恐くない。怖いのは本当の請求」と言うギターの有海さんのエピソードに客席は爆笑。もし客席にもマイクを回したら、一人ずつ貧乏自慢をしてくれそうな、そんな雰囲気です。みんな顔を輝かして「ビンボー!」「暇ナシー!」のコーラスに参加している。
その後、リラックスして聞けるカヴァーの曲が続き、一部終了。
「今夜は厨房の人間が急病で倒れたので、急遽、ドラムスの瀬山君が料理を作ります」という修子さんからの連絡に、客席も驚くやら笑うやら。
2部は、志を抱く者の飛翔を歌った、ドラマチックな『ウォーター・スネイク』からスタート。音のうねりとボーカルの強さが、浪頭の高さ、渦、雷鳴を目の前に描き出すようです。そして『ジャッカルとアラビア人』では、黒い夜空にくっきりと蒼い月を浮かべて見せてくれました。私はこの曲の美しさを、言葉で説明することができません。鳥肌が立つような哀しさを「美しさ」と呼ぶのかもしれません。
息を止めて聞き入った曲の後は、アップテンポの曲で体を揺らし、セッション曲ではブルースハープの板谷さんとギターのゲストの"クガちゃん"が参加してノリノリのステージ。そして、ラストの『シンデレラのお姉さん』まで突っ走りました。
アンコールの最後は、映画『ローズ』の主題歌。修子さんが歌うこの曲は、"癒し"の力を持ちます。
修子さんの歌の"癒し"は、蔓延する、現実を逃避して関係ない別世界を描くモノとは違い、きちんと自分の傷口を見つめさせます。だから痛みもつらさも感じます。でも、心が潤い、逃げないで立ち向かう本当の意味の元気をもらえる気がします。
「お客に緊張を強いるライブなら、ちょっとうまいミュージシャンなら、誰でもできる。本当に難しいのは、息を詰めた後に、ふわりと緊張をゆるめてあげること」
プライベートでそう語った修子さんの言葉が思い出されます。観客への愛が肌に降り注ぐようなライブでした。
次回は2月4日だそうです。また"秘密クラブ"にみんなで集いましょう。
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