2006年4月1日。中央線の車窓からは、満開の桜が臨めました。川面に垂れる枝は花をいだけるだけ抱き、ゆらゆら揺れています。
でも、私が行くのは花見ではありません。高円寺ペンギンハウスでの仲田修子&ミッドナイト・スペシャルのライブという、一夜の夢へと向かいます。桜は明日も咲いているけれど、この夢は今夜しか見られません。
桜に惹かれた人やしがらみに袖を引かれた人も多いのでしょう、今夜の客席は七分咲きくらい。でも、今年も『港が見える丘』からスタートした春のライブは、すばらしい夢になる予感がたっぷりでした。バンド復活から三度目の春、三度目の『港が見える丘』は、修子さんのオリジナル歌詞の三番が加えられ、更に深みと味わいのある歌に育っていました。以前はセピア色の趣の歌謡曲として味わっていた曲が、新しい痛みを伴って胸を打ちました。綺麗なことと寂しいことは同居しているのだなあと思わせる『新曲』でした。
最近のライブは、冒頭は有海さんのアコースティックギターと二人で静かに聞かせることが多いようです。『夜が好き』という雰囲気のある曲に続き、『ヘルメットおじさん』と続きます。コミカルなタイトルのこの詞は、修子さんの古い友人である作家の泉優二氏の手によるものです。ナレーションとコーラスで構成されたメッセージ色の強い曲ですが、抑えの効いた修子さんのナレーションは、淡々としているからこそじわりと胸に滲みます。
『ウォーター・スネイク』からはバンド編成に突入し、アップテンポの曲、しっとりした曲と多様に進み、一部最後には新曲『高円寺オン・マイ・マインド』。歌詞には高円寺でよく見かける風景が出て来ます。頬がふわっと緩むような笑みを誘う、温かい曲でした。修子さんの引出しの多さにも驚きます。
二部は、前回ダンス付で復活した『ダンシング・ゾンビ』で始まりました。バンドメンバーが振りを合わせるシーンはかっこいいです。ぜひ、足を運んで見てみてください。『狼の子守唄』『シンデレラのお姉さん』など人気のある曲がぎゅっと詰まった二部のステージでした。もちろんブルースセッションのコーナーも有り、オリジナルのブルースにハープのドラゴン板谷さんが参加して盛り上がりました。
アンコールは「前回私が演って気持ちよかったから」という理由で(笑)、東京行進曲等のメドレー。そして、『ミー&ボビーマギー』が終わりメンバーが楽器を置いてステージを去っても、アンコールの拍手は鳴りやみません。
じゃあ本当にこれが最後、ということでアカペラの『マザーレス・チャイルド』のプレゼントがありました。最初のフレーズだけ演奏して有海さんもステージを去り、修子さんがひとりステージに佇みます。孤高のライトの中、修子さんの魂の声が店内に響き、穴蔵のライブハウスを天井の高い聖堂に変えました。観客も、激しく拍手した指を今度はきつく組んで、息もせずに聞き入りました。
高円寺を"世界で一番クールな街"と称した修子さん。その高円寺の女王である仲田修子こそ、クールの中のクールです。
今夜もクールな夢を見させてくれた仲田修子&ミッドナイト・スペシャル。ライブの度にどんどん世界が広がり、そして世界が深まっていく気がします。次回も楽しみです。
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